死して屍拾う者無し

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映画評/「キャタピラー」

最近また映画をたくさん見たので
映画評を書きます。

まずはいきなり重たいヤツから。笑

キャタピラー
主演:寺島しのぶ、大西信満
監督:若松孝二
公開:2010年


ストーリーをざっくりと。
太平洋戦争さなか、戦地へ行った夫が
怪我をして負傷兵として戻ってくる。
夫は両手両足を失い、顔にもやけどの痕があり
耳も聞こえなく、しゃべれない状態になっていた。
神の国を守るため負傷した軍人は軍神とあがめられるが、
妻のシゲコはその夫の世話を押し付けられる。
夫の身の回りの世話だけでなく、
食欲と性欲の相手もこなす妻シゲコ。
そんな夫との生活は一体何の意味があるのか?
と腐るシゲコ。
夫のキュウゾウも戦地で犯した民間人レイプと殺害に
苦しめられ徐々に常軌を逸していく・・・。

といった感じでしょうかね。

この作品の主演女優の寺島さんはベルリン国際映画祭で、
主演女優賞を受賞されてましたね。
すごいことです!

寺島さんならではの演技力と
訴えかけるパワーが受賞に繋がったのかなあと。
でも何といってもこの映画の特異な設定あっての
受賞ですよね。
こういう映画じゃなかったら受賞は無かったかなあと。

アタイは実を言うと寺島さんの顔が苦手で
(はっきり言い過ぎー笑)
この映画がなかなか見れなかったんだけど。
そう。
反戦映画だからとか、エログロだから~が
理由じゃなくて。
寺島さんの演技を見続けることが出来るかどうか?
がポイントだったんだよねー。
でも何故か急に大丈夫になったようで
普通に見れました。
いや、むしろ思ったよりキレイだった~
ぐらいに感じてましたわ。
ナンなんだろ、この心境の変化。

それは恐らく・・・
先日、原作である江戸川乱歩の「芋虫」を
読んだからかも。
シゲコは原作ではトキコって言うんだけど。
中年のあぶらが乗った多少太り気味の女性
と言う設定で決して美人では無いと言う設定なのよね。
シゲコは醜かったんだ・・・と思ったら
寺島さんはきれい過ぎるくらいで。
・・・。
アタイってばなんて失礼な思考回路なんでしょね。

失礼ついでに・・・
この映画の話をどっかで最初に読んだ時に
若松監督ってどうしていつも二番煎じなんだろ?
って思っちゃったのよね。
恐れ多くもだけどそんなことを思ったのは、
同じことが2度続いてたからで。
そうするとさすがに失礼思考がスタートしても
しょうがないというかねえ。

クロネコが好きなオムニバス映画で
「乱歩地獄」って言うのがあるんですわ。
ずいぶん前にココにも感想を書いたんだけど。
あの中にまさに「芋虫」が入ってて。
こっちの映画は2005年に公開されてるんだよね。
アタイはDVDを持ってるから監督や
役者さんたちのインタビューも見たんだけど。
「芋虫」を撮った方はピンク映画で知られてる方らしく。
乱歩物を撮るにあたり好きなのを選んでよかったようで
わざわざこの作品を選んだらしいんす。

アタイこっちの映画を最初に見たとき
度肝を抜かれたのよね。
な、な、な、何この設定!?って。
監督は原作から大きくアレンジして現代風に撮影してて
コンクリの建物内に暮らすトキコと軍人の夫と言う設定に
なってて、かなりスタイリッシュに撮ってるんだわ。
不思議なアートを見てる感覚になると言うか。

手足の無い包帯ぐるぐるの芋虫状態の旦那を
食事から性のお世話までやってるのが、
白いドレスを着た美人のトキコさんなんす。
で、その様子を天井裏から眺める松田龍平くん。
その部分は同じく乱歩の「屋根裏の散歩者」
っぽかったりもするよね。

いやー。
大胆な映像と設定だけど。
クロネコこのとき原作を知らなかったから
もうとにかくびっくりで。
予備知識無しに見た時の衝撃ときたら。
「あ、旦那の手足が無いから芋虫なんだ!」
って分かった時のショックと来たら!
とにかく、えええええーっ!って驚きながら
見た覚えがあるのよね。

この映画では、奥さんは旦那を愛していたので、
自分の手足も無くしてしまおう!と考えて龍平君に
「切ってください」って頼んで、その後のお世話も
頼む・・・っていう奇想天外な内容に変わってたけど。
でもまあ。
なんだか新解釈も悪くないなーと。
好き嫌いは別としてね。
愛の物語だったんだ的な。

でね、それから数年経って若松監督が同じ原作の
「芋虫」をモチーフに反戦映画を撮ったわけで。
監督は恐らく「芋虫が本当の伝えたいことは反戦だ!」
こんなの本当の芋虫じゃない、オレが撮りなおしてやる!
と思ったのかなあとアタイは受け止めた。

何でそう思ったかというと、
以前たかじんのそこまで言って~に監督が出演
されてた際に似たようなことを言ってたからで。
他の映画での話しではあったんだけど、
「突入せよ!あさま山荘事件」と言う映画が
2002年に公開されたんだけど、それを見た若松監督は
「こんなの本当の浅間山荘事件じゃない!オレが
本物を撮ったる!」と思ったそうで。
だから2008年に公開された「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」
を撮ったそうなんす。

アタイは浅間山荘の方は両方とも見てないので
何とも言えないけど
今回また「芋虫」をあとで撮ってるのを見て
あららーと思ったのですよ。
実際は単なる偶然で、若松監督はむかーしから
「芋虫を軸に反戦映画を撮ろう!」と思ってたのかも
しれないけど、2度も続くとねえ。

アタイのようなひねくれてる目には
「この監督はどんなテーマでも自分が撮った方が作品として
素晴らしいものになる!と思ってるんだなあ」
と映るんですわ。
とはいえ、実際寺島さんがすごい賞を受賞されてたから
やはり若松監督が撮った方が優れてるのかもしれないんだけど。

ちなみにね、乱歩の原作に忠実なのは
確実に若松芋虫の方だよ。
設定がかなり忠実なのよね。
農村風景も戦争中の田舎~な感じが出てて
非常に良かった。

原作と違ってたのは・・・
映画では芋虫状態の夫・キュウゾウ氏の心情が描かれてたところかな。

小説のほうは終始妻視点なんす。
で、もっと妻は自分勝手。
不具者である夫(この表現こそが乱歩ワールドだよね。)
の考えてることや、感じてる事、戦地で体験してきたことなんか
一切描かれてないんす。
しゃべれなくて、思うように動けない夫が
妻からしてみたら性的欲求のはけ口状態で。
そう。
小説のほうはむしろ嫁のほうが性的なことに
夢中になってる。
世間からは「軍神の世話するけなげで貞淑な嫁」
と言う見方をされてるのに、
夫を性的はけ口にしてる分、
自分にどんどん色気が出てくるような気がして
世間に気づかれたらどうしよ・・・とちょっと
悩んでるんです。
まさに。
エログロの乱歩ワールド炸裂。

この小説は書かれたのが1929年だそうで、
太平洋戦争が始まったのは1941年らしいので。
太平洋戦争前の作品だったと言えるよね・・・。
あれ?
じゃあ反戦小説扱いされてたって言われてるけど・・・。
どの戦争の事を言ってるんだろうね?
日露戦争かな?
まあ、太平洋戦争が始まってからは反戦扱いに
なったのかもしれないけど。
実際本作品は戦時中には書かれてなかったので
乱歩としてはそこまで反戦の意味をもって無かったのかな?
って気がしてしまう。

それより。
エログロ満点で、作品の中に非常に陰気な空気が
漂ってるし、薄ら怖い感じもするから。
まさに乱歩ワールドそのもので、
その世界観を出すために使った強烈な設定なだけ
なのでは?とも思えて。

なので原作は反戦小説ではない、
とアタイは思うのですよ。
でも乱歩独特の「耽美」も無いんだよね。
美しい人物が一切登場しないのだ。
乱歩は時に醜い人をさらしもの的に扱うから
(現代だと差別に当たることもままあるくらい)
まあ、乱歩作品にはありがちかもしれないし。

小説ではね、奥さんが旦那を虐待したりも
するんですわ。
そういうところもリアルでしょ。
映画ではあんまりそういうのは無いかな。
時々寺島さんはヒステリックにはなってたけど、
虐待シーンは無かったような・・・。
寺島さん演じる奥さんはあくまで戦争の被害者、
男社会の被害者って言う描き方だからね。
そういうの・・・ってドイツ人好きだからなー。
どんぴしゃだっただろうね。

でも。
原作は違うのだ。
ゆがんだ愛の形を表現してるというか。
キラキラした純粋な旦那の目が怖くなって
ヨメがある夜その目をつぶしちゃうんだよねー。
しゃべれないし、聞こえないし、手足も無い旦那の
唯一使える機能が目なのに。
その目を潰してしまう嫁!
来たー!って感じよね。
でも、あとでハッとして、だんなの背中に「ユルシテ」って
指で書くわけなんす。
だんなはそのまま庭の井戸まで
這っていってドボンと井戸に落ちてお陀仏・・・
みたいな終わり方。
きゃー。
そんで、部屋には旦那がクチを使って文字を
書いたメモの遺書に
「ユルス」って書いてあるのだ。

やー。
やっぱ乱歩は圧巻だよね。
ジーンときたもん。
寒気がする気持ち悪さだけど愛があるという。

映画のほうは、旦那の方がヨメの体を
求めまくる・・・と言う進行で。
嫁は嫌々その求めに応じる・・・って感じかな。
旦那の世話をしなきゃいけないなんて、
自分の人生をめちゃめちゃにされたわ・・・
ってヨメの恨み節さくれつ。
恨みながら軍歌うたっちゃうみたいな。
で、うさばらしに旦那に軍服を着せて
村の中をリヤカーで練り歩く。

よくよく考えたら、太平洋戦争の時代の
日本女性は、旦那のせいで自分の人生をめちゃくちゃに
された・・・みたいな発想はしないんだよね。
そんな発想を出来るようになったのは現代の女性から
なので、当時の女性は理不尽な結婚でも受け入れたし、
何でも親が命令したら従ってたので
不満とか特に発散させてなかったと思うんだわー。
だからああいう寺島さんみたいなセリフは
無かったんじゃないかなと。
若松さんはリベラルな人なんだろうね。

旦那は中国の娘を犯して殺したという罪の意識に
さいなまれるようになって、
徐々におかしくなっていって、家の隣の池に
身を投げて自殺。

映画を見てる途中で家の横に池があるのが見えたから
終着点が分かっちゃった。
ああ、最後はこの池に落ちるんだーってね。
ここもある意味原作に忠実。

この映画では寺島さんと大西さんの演技が
すごくて、そりゃあ目が離せないんだけど。
監督の編集はいまいちだったといわざるを得ないよね。

あのエンディングはナンなんだ?って感じでしょ。
広島、長崎のきのこ雲をどどどーんと見せて。
戦争で亡くなった人の人数を羅列して。
終戦を表現するために、東京裁判で裁かれた
戦犯の連合軍による実際の処刑シーンを流したりと。
急に支離滅裂になるんだよね。
流れが一切断ち切られちゃう。
何が言いたいのかサッパリ分からない。

映画にこういう本物のドキュメンタリ映像を交えるのは
アタイ的にはアウトです。
そんなの映画じゃない。
自分の力を使ってないじゃないのーと思うんだよね。

反戦を訴えたいなら逆にああいう映像は使わないほうが
いいのになーと思った。
あとあのエンディングの曲もね・・・。
いきなり広島の原爆にやられた少女をテーマにした
歌詞でうたわれても・・・って思って。
キャタピラーと言う映画の本筋と違うじゃんかね。
犠牲になったのは民間人って言いたいんだろうけど
なーんかポイントがずれたなあと。
最後でがっくしよ。

アタイは最後まであの農村だけのシーンで
終わればよかったのにーと思ったねえ。
余計なものをつけないほうが、余計に余韻を残すのに・・・。
残念なり。

でもまあ個人的には、連合軍(多分アメリカ人かな)が
首吊り台で戦犯を次々絞首刑に処してる
実際の映像を見れたのは興味深かったんだけどねえ。
でもあれを映画に付け加えちゃいかんよーと。
同じものを再現するのならまだしもねえ。
フィクションで手抜きはダメよ。

ああいうドキュメンタリ映像はNHKあたりが
本来は地上波でバンバン流すべきなのよね。
連合軍によって行われた事とか、
原爆で被害を受けた人の映像とかね。
むかしは8月になると午前中そういうドキュメンタリが
毎朝流れてたんだけど。
さすがに絞首刑シーンは無かったんでねえ。
ドイツだと戦争関連の映像は普通にテレビで流すし、
逆に興味深いとおもうので
日本も流した方が良いと思うんだけど。

ああ。
また感想が長くなったね。

お薦めするかどうかは別として映画の評価は。
☆☆☆で星3つかな。
この映画が持つパワーはほとんどが
乱歩の世界観と役者の演技によるものかなあ。
監督の最後の編集が無ければ星4つだったな。

寺島さんと大西さんは、ホント素晴らしかった!

ちなみに乱歩地獄の方で芋虫軍人さんを演じてるのは
大森なおさんだよー。
アタイはそれを見て「この人って!」って
あきれて感動したんだよねー。笑
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by kuronekomusume | 2011-08-31 07:28 | 映画評 | Comments(3)
Commented by sandonomeshi at 2011-09-10 22:54
おぉ〜、とうとうご覧になったんですね、キャタピラー。
私は去年のベルリナーレ(寺島さんが賞を取った時)で観たのですが、観に行こうと思ったのはクロネコさんに借りて“芋虫”を観てたから。でもおっしゃるように設定も撮り方もそしてテーマも全く別物ですよね。私には時代とか設定が江戸川乱歩の原作に忠実な“キャタピラー”より、かなりアレンジされている“芋虫”の方がテーマ的には近いと思えます。
若松監督が何かのインタビューで「『怒り』があるから映画を作る」みたいなことをおっしゃってたけれど、戦争あるいは戦争を起こしている人間に対する怒りを表現するのに“芋虫”という性をもって男女の愛を描いた作品(クロネコさん曰く、「エログロ」に。笑)を選んだのは「ピンク界の黒澤明」こと若松監督所以?
↓続く
Commented by sandonomeshi at 2011-09-10 22:54
それにしても私もあの取って付けたようなエンディングはないよな・・・と思いました。クロネコさんも「興味深かった」とおっしゃってましたが、あの映像を広く世に出すためにはこの手だと思ったのでしょうか? そうだとしたら確かに一理あるとは思うのだけれど、映画という芸術作品としては・・・ですよね。
あと私が残念なのは、寺島さんが受賞したがために(それ自体は良いんだけど)大西さんがすっかり霞んでしまったこと。彼も相当難しい役柄をがんばってたと思うんだけど・・・。
Commented by kuronekomusume at 2011-09-18 05:47
sandoさん。見ちゃいましたよー、キャタピラー。もっと薄暗い映画かと思いきや、意外とすっきりした映像で見やすかったです。
衝撃度は乱歩地獄の「芋虫」の方ですねえ。なんせバックグラウンド無しに見たんで。笑
若松氏の映画を他に見たことが無いので傾向は分からないんですが、「性で生を描く」事で反戦を訴えるのはなーと言うところですね。
ほんとにあのエンディングの編集はすべてを台無しにしてましたよね。せっかくの映画が持つパワーをおかしなものにしてるというか。あれじゃただのセンチメンタルな左巻きとしか扱ってもらえなくなるのになーと。苦笑
絞首刑の映像は違うルートで見たかったです。
確かに大西さんの演技もすごかったですよね!あの四肢が無く、しゃべれないままに演じる姿が非常に強い力を放っていて、目が離せない!という感じでした。確かに何であんまり評価されないのか不思議ですよね。
監督の役者を選ぶ力は寺島さんといい、大西さんといい一流ですね。笑