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死して屍拾う者無し

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読書感想「されど我らが日々」

日本語が思い出せない・・・
ってことがよくあるんだけど。

今どうしても思い出せない言葉は
そもそも覚えてない言葉で。
むかーしむかしおっかさんから聞いた
単語なんだけど。
果たしてそれがなんという言葉だったか?
を知りたいけど。
もうおっかさん亡くなってるから
聞くに聞けないという。

でもそんな単語が日本語に存在するのかどうかも
実ははっきりしなくて。

いつ聞いたのかも良く覚えて無いけど。
たぶん25年くらい前かな。
アタイのおっかさんは無類の本好きで。
とにかく常に本を読んでた。
同時に複数の本を読み進めるタイプで。
でも。
本は買うと増えてくるから
モノを持ちたがらなかったおっかさんは
常に図書館に行ってた。
図書館に無い場合はリクエストして
取り寄せてもらって。
そもそも置いてなくておっかさんが
読みたくてリクエストしたのに
誰か他の人に先に借りられてたー!
キー!
って言うメールがよくきてたな。笑

ま、とにかく本が大好きなおっかさんで。
そんなおっかさんが25年くらい前に
「10代のときに読んだスタンダールの
『赤と黒』はあまりに衝撃的だったから
XXにしようと思ったのよ。」
ってアタイに言ったんだわ。
で、アタイはこのXXにあたる言葉を
知らなかったから
「XXって何?」
って聞いたのよ。
したらおっかさんが
「代が変わるたびに
読む本のことよ」
って教えてくれたんだー。

要は、10代から20代に、
20代から30代に、40代にと
年をとるたびにその本を再読することで
その年代で感じ取るものが異なるから
その都度読むことで新鮮な感覚を感じられると。
それくらいすごい文学作品であると。
そういうことだったようで。

へえええええ
と思ったのよね。
当時のアタイはマンガは読んでも
小説とか読まないタイプで。
そんなスゴイ本があるのかーと思ったもんで。

そのXXに当たる日本語がクロネコは
分からないんですわ。
「代替わり」かなあ?
と思って検索してみたけど
そんな日本語は出てこない。
そもそもそれに該当する言葉って
あるんだろうかね?
ありそうな気もするし。
うーん。
誰か教えてください~。

で。
アタイは本を読み始めるのが遅かったので
そういう本に出会ってなかったんだけど。
もしかしたらこの本がそれに当たるのでは?
と言う本があって。

それは。
柴田翔さんの「されど我らが日々」です。

内容にすごく感動したとか
脳にガーンと来たとか
そういう類じゃないんだけど。
なんというか。
自分が年を取るごとに読んだ時の
受け取るものが異なる本だ!
という意味ではまさにドンピシャだったからで。

以前読んだときにアタイが
読み取ったモノが
今回読んで感じたものと全く違ってて。
当時のアタイは
「女性の自立とマリッジブルー」が
テーマだと受け取ったんだわ。

でも今回はまったくそうは思わなくて。
なんというか。
違うポイントが気になったというか。
むしろ何で「女性の自立とマリッジブルー」が
テーマだと思ってしまったのか
解せないくらいで。
人って変わるんだね。
だから10年ごとに読む意味があるのかも。
と思った。

この本は1974年に出版されてるので
44年も前の本。
アタイがこの本を知ったのは中学生の頃だけど
読んではいなかった。
何知ったかといえば。
当時から大ファンだった高見沢さんが
一押ししてたからで。
高見沢さんは学生運動時代の
青春を描いたこの本がすごく良いって
言ってて。
当時中学生のアタイには遠い昔の
学生運動とか興味なかったし
いくら大好きな高見沢さん推薦図書でも
手が出ないわと思って。
で、2006年になってたまたま古本を
手に入れたので、
しかも以前のブログ記事によると
ロンドンの古本屋で見つけたとかで。
一体どこ?って全く記憶に無いけど。
まあやっと手に入ったので約10年前に
読んだんだよね。

全共闘時代の青春物語~
と認識してたので
もっと青臭いというか、
ドロドロした思想的な内容かと思ってたら。
ぜんぜん違ってたので
愕然とした覚えが。
高見沢さんが言ってたことと
違いすぎて。
学生運動とかあんま関係無いじゃん!
女性の自立とマリッジブルーがテーマじゃん!
と思ってしまったのよね。

確かに主人公フミオ氏の婚約者節子さんは
結婚前にうだうだいろいろゴタクを
並べたてそれがズルズル続くんだわ。
だから当時のアタイは
「なんだ~、マリッジブルーか。
専業主婦が嫌なら結婚しても仕事続けりゃいいじゃん~」
と思ってしまったのよね。

ただね、これは1969年頃の全共闘時代の
話だから。
この時代に果たして女性が
自立したい!
結婚しても働きたい!
というより婚約解消したい!
とか言いやすい環境だったのか?
といえば。
そうでも無さそうだよなあ
とさすがの私も思うわけで。
男女雇用機会均等法が施行されたのだって
1986年だし。
だからまあこの本に書かれてるようなことは
当時は前衛的だったのでは無かろうか?
ということで。
だから女性の自立がテーマだったんだなと
理解したんだよね。

そのあと10年以上アタイはこの本を
本棚に入れっぱなしにしてあって。
その間ずーっとずーっと
女性の自立がテーマの本だと
思い込んでたんだよね。

で、先日再読してみようと思って
読みながら。
あれ?
あれ?
と言う違和感と。
こんな内容だったっけ?と言う新鮮さで。
全く違う受け取り方をしたという。

なんというかね。
女性の自立とか微塵も出てこなくないか?
みたいなね。

今回は登場する女性たちの思いが
かーなーり分かった。
今更ながら分かった。
クロネコどんだけ鈍かったんだろう?って
思うけど。
今になって彼女たちの思いがすごく
よくわかって面白いなあと思ったんだわ。
相変わらず鈍いクロネコです。

特に主人公フミオの婚約者である節子の
思いがすごく良くわかった。
なんというか。
フミオよりもアタイの方が節子を
理解できたんじゃなかろうかとさえ
思えるくらい今回ははっきりわかった。

フミオさんは東大の大学院生で
将来は地方の大学に職が決定してるという人で。
超安定した生活が保証されてる。
容姿についての記述は無いけど
恐らくまあまあ見た目が良いんじゃ
無かろうかと。
何故なら。
かなりモテる設定だからで。
次から次へとオンナをとっかえひっかえ。
けどそんな浮ついた時期は大学院卒業と同時に
終わらせて、親同士が知り合いの
幼馴染の節子と婚約して落ち着こうとしてる
みたいな。

フミオのその打算的かつ感動の無い
冷えた心がどうにも節子には
徐々に耐えられなくなり・・・
もっと心の中で惹かれあいたい!
と言う思いが強くなり~みたいな。
けど自分は自分でからっぽで
フミオに見合うほどのモノを
自分は何も持ってない・・・
ことで悩むわけです。

この純文学小説には色んな女子学生が出てくるんだけど。
どの子もかなり奔放。
1969年の女子学生ってば。
こんな自由だったんですか?!
って言うのが今回の一番の驚きポイント。

とにかく処女を捨てるから
フミオさん相手してください!って子がいて、
あげく妊娠してしまって。

みんなで夏合宿に行って別の部屋で
フミオと体の関係を持ちつつも
他の女に寝取られる子もいれば。

どこぞの文学部の教授の愛人をしつつも
その教授が紹介した東大研究員と
見合いして結婚する子もいれば。

東大研究所職員として普通に振舞いながらも
行きずりの男と連れ込み宿に行く子も居て。
同じくの職員をしつつ
手堅くそこの助教授と結婚する子もいるという。

なんつーか。
えらい奔放ですね!
っていうのがアタイの感想です。
しかも登場人物の男子学生はみんな東大。
女子もおそらく日本女子大。
エリート層で。
お嬢で。
でもやってることはちゃらんぽらん。
うまいこと文学的に表現はしてるものの
理由付けはしてるものの。
はいはい、そういうことですね!的な。

自由奔放なのに
この世代は自分が親になるとやたらと子供に
厳しかったりしたはずで。
オノレら奔放にやってたのに
なんで子供はダメなのよ?みたいな。
そんな気がしなくも無い・・・。

にしても。
純文学の設定は興味深いね。
登場人物がみんな東大生ってところが特に。
みんな思考が深いのよねー。
東大生の思考だから純文学になるんだなというか。
そうね、同じことをやるにしても
Fラン学生だとあんな小難しい言い回ししないし
「ドイツ語文学を例にしてみたり」とか。
心の渇きをくどくどしく表現したりとか
自殺する前の気持ちを文学的に表現したりとか。
はたまた学生運動の夢に破れて挫折感を
味わうところとか。
自分の弱さ、ずるさを表現するところとか。
Fランじゃあ貧相な言い回ししかできないし、
単なる引きこもりか?とか。
女ならメンヘラか?とか。
そんなレベルにしかならないけど。
インテリがやると、そこには理由が発生して
さも必然的であったかのようにつづられて。
いやー。
見事な文学になるわけで。

ちなみに作者の柴田翔さんも東大卒です。
そんで長らく東大で教授をされてたのかな。
この本では芥川賞を受賞されてます。
180万部以上売れたんだって。
すごいね。
今は不可能な販売数。

柴田さんが若者の青春、熱、
そして挫折・・・みたいなのを浮き上がらせるのに
使ってるアイテムが学生運動なのかなあと。
この小説に重みを与えてるというか
核を成してるのが
全共闘とか六全共とか。
けどアタイがこの本を読むとそういう
シリアスなテーマが読み飛ばされてしまう。
下世話なところにばかりフォーカスしてるしで。
すみません。
当時この本に夢中になった人たちを
侮辱してるかもしれない。
が、しかし。
それも仕方がないよね。
なんせ全共闘ってアタイが産まれる前の
話だから、さっぱり感覚が分からなくて。
潜るとか言われても、はああ・・・って感じで。
けど。
もしかしたらうちのおっとつあんあたりに
聞くと当時の背景が良くわかるかもしれん。
というか。
うちのおとっつあんもしかすると
潜ってたとか?
うーん。
よくわからん。

まあ。
あの時代の熱みたいなのに浮かされた
学生たちがたくさんいたわけで。
それがまあ賢い大学の学生ばかりだったってのも
なんか面白いなと思うけど。
その熱と行動とデモとゲバと。
学生運動はそのあと解体されてしまって
活動から冷めてシレーっと現実社会に
戻って社会人になってしまう人もいれば
どうにも戻れない人もいて。

その熱と比べると何の熱い思いも
感じないままフミオと結婚していいのか?
と悩む節子・・・みたいな。

そんな感じかなあ。

節子はフミオと心のつながりを求めていたのに
完全にすれ違ってしまってそれに愕然とするわけで。
フミオの心が手に入らなかったことを理由に
節子は婚約破棄するんだけど。
そうやって悩み続けていた節子に
何も気づかない鈍いフミオ・・・。
フミオには節子と婚約する前にセフレ扱いしてた
優子が妊娠して自殺という重たい過去もあるんだけど。
それでも特に何もフミオの心には響いてこない・・・
みたいな感じで。
フミオどんだけ鈍いんだ?
クロネコも鈍いけどフミオの鈍さには負けるわ。
フミオ最強か?
みたいな。
ちなみにフミオは一切全共闘運動に
関わってない。
ノンポリとかそういう思想さえ本文に出てきて
無かったかも。
政治活動には全く関わらず、女子を渡り歩いて
青春を謳歌してたクチ。
フミオやっぱ最強。
っていうか。
主人公がまったく学生運動に関わってないってことは
やっぱ学生運動というテーマはこの本においては
そこまで重要じゃないとも言えそうな気がする。
関わってた人はみんな脇役なのでね。
まあ関わった人の方が人生がキラめいた時期があるから
フミオの淡々とした人生との対比として
引用してるのかもしれぬ。

節子はやっぱり自立心が強いというか。
感受性が強くて賢い女なのよね。
だから悩んだままもやもやしたまま
フミオとは結婚できない!
って思いつめてしまうという。
それでも。
1970年頃に、ひとりで仕事を通じて
自分を見つけたい!
って自分探しに旅立つのは強い!
って思った。
すごい人だと。

10年前のアタイは
見合い相手にくっついて
専業主婦になって人生を幸せにだけど単調に過ごす
って言うのに悩んでる節子に対して
そんなの自立しちゃえばいいじゃん!って思いながら
読んでいたのかも。
だから婚約破棄して仕事で自立しようと旅立つ節子に
すっきりした気分になったんだと思う。
今はそこに至った理由がすごくよくわかって
痛みが理解できるようになったというか。
彼女の行動よりも思い悩んだ気持ちに
共感できるかな。

まあ、今回アタイが感じたのはこんなところです。
全共闘への思い入れは前回読んだとき同様ゼロだけど。
青春ストーリーがすごく興味深くて
面白かった。
純文学だから文章が美しいのもあるし。
でも何よりも。
柴田翔さん、あなた男性なのに
なんでこんなに細やかに女性の感覚というか
思いが分かるんですか?
って言うのが読んでる間にアタイが感じたことだね。

普通男性の小説家が本を書くと
女性の内面の記述なんてすっ飛ばされてるというか。
うまく表現されてることなんて珍しい気がしてて。
男性には分かりえないからこそ
逆にミステリアスな良くわからない女性・・・
っていうキャラクターは設定はよく見かける。
でも柴田さんは細やかに女性の内面を
掘り下げて書いてるし
複数の女性キャラクターを表現してるから
すごいなあと思うわけで。
それに。
30歳のアタイには分かりえなかった細やかさを
表現されてるわけだから。
すごいなあと思ったのよねー。
単にクロネコの脳内成長が遅れてるだけかも
しれないけど。

果たして50代になったときに
この本を読んだら
アタイは同じ事を思うのか。
はたまた違うことを思うのか。
興味深いね。
けどこの本1979年に重版してるから
大分古くて痛んでて黄ばんでるんだよね。
果たして10年も持つのか?
大事に保管しておかねばね。

そういや。
スタンダールの赤と黒は
クロネコ未読だけど。
実家の本棚に今もあるから。
読みたくなったらいつでも読めるといえば読めるなあ。

by kuronekomusume | 2018-05-02 07:12 | 読書感想 | Comments(2)
Commented by ATAC at 2018-05-13 07:46 x
ん~、XX、何でしょうね?
本だから、蔵書?
大切にするから秘蔵?
これ位しか思いつきませんね~。

思い出したらまた教えてくださいね?
Commented by カメ at 2020-06-03 08:01 x
おもしろ〜